「いつか独立して、自分の工場を持ちたい。」
製造業で働いている人なら、一度くらい考えたことがあるかもしれません。
私もそうでした。
そして実際に独立して、一人で町工場を始めました。
現在まで約16年間、加工の会社を経営してきました。
今では社員も増え、加工会社とは別にロボットシステムの会社にも関わっています。
ただ、独立した当時の私は、今の姿をまったく想像していませんでした。
むしろ、
「頑張れば何とかなるだろう。」
そのくらいの気持ちだったと思います。
しかし実際にやってみると、
頑張るだけでは、どうにもならないことがたくさんありました。
この記事では、町工場を一人で始めて16年経営してきた私が、製造業で独立して実際に分かったことを書いてみたいと思います。
これから独立を考えている人にとって、少しでも参考になればと思います。
独立した理由は、もっと給料を増やしたかったから
私が独立しようと思った理由は、すごく格好いいものではありません。
もっと給料を増やしたかったからです。
地方で働いていると、なかなか給料が上がりませんでした。
だったら、
「自分でやった方が収入を増やせるのではないか。」
そう考えたのが、独立する大きな理由でした。
もちろん、
「独立すれば必ず稼げる。」
という保証があったわけではありません。
むしろ、心配なことばかりでした。
一番の問題は、やはり資金だった
製造業で独立する時、一番大きな問題になったのは資金でした。
加工の仕事をするには、機械が必要です。
そして、その機械が高い。
私が独立したのはリーマンショックの後でした。
加工機をリースで導入しようとしましたが、審査はことごとく通りませんでした。
しかも、当時は仕事のあてもありませんでした。
手元に十分な資金があったわけでもありません。
ほとんどない状態からのスタートでした。
今、独立前の自分に一言だけ言えるなら、
「起業する前に、少しは金を貯めとけよー。」
と言います。
当時の自分には、かなり言いたいです。
欲しい機械は買えなかった。だから中古機械から始めた
本当は、
- ワイヤー加工機
- マシニングセンタ
が必要だと考えていました。
しかし、リース審査が通りません。
そこで仕方なく、中古のマシニングセンタと中古のNCフライスを探しました。
ワイヤー加工機は後回しです。

最初から理想の設備をそろえてスタートしたわけではありません。
買える設備で始めるしかなかった。
これが現実でした。
製造業の場合、設備がなければ仕事そのものができません。
しかし設備を買えば、仕事が来るわけでもありません。
ここが、加工業で独立する難しいところだと思います。
最初の仕事は、商社の担当者さんが紹介してくれた
独立する時、私はすでにたくさんのお客様を持っていたわけではありません。
仕事のあてもありませんでした。
最初のきっかけを作ってくれたのは、中古機械を購入した商社の担当者さんでした。
その担当者さんが、付き合いのある会社を紹介してくれました。

そこから仕事が始まりました。
今振り返ると、
技術だけで仕事が取れたわけではありません。
人とのつながりに助けてもらいました。
独立する時に、
「自分は加工ができるから大丈夫。」
と思うだけでは、かなり厳しいと思います。
加工ができても、そのことを知っているお客様がいなければ仕事は来ません。
「頑張れば何とかなる」は、通用しなかった
独立する前は、
「自分が頑張れば何とかなる。」
と思っていました。
ところが、実際は違いました。
頑張っても、どうしようもない時があります。
独立したばかりの頃、同業者から回ってくる仕事は、
- 面倒な仕事
- 複雑な仕事
- 安い仕事
が多かったです。
考えてみれば当然なのかもしれません。
簡単で利益の出る仕事なら、その会社が自分でやります。
自社でやりたくない仕事だから、外へ出す。
独立したばかりの小さな工場には、そういう仕事が回ってくることも多いです。
だから、
「仕事が来た=儲かる」ではありません。
これは独立してから、かなり実感しました。
一人でやると、加工以外の仕事で機械が止まる
一人で町工場をやると、加工だけしていればいいわけではありません。
見積もり。
材料手配。
プログラム。
加工。
検査。
納品。
営業。
経理。
全部やらなければいけません。

そして一番困るのが、
それらをやっている間、加工が止まることです。
お客様から電話が来れば、機械から離れる。
見積もりを作れば、機械から離れる。
納品へ行けば、当然その間は工場にいません。
一人だから人件費が少なく、頑張れば利益が残ると思っていました。
でも、最初はほとんど利益が出ませんでした。
一人でやるメリットはあります。
しかし、
一人で全部できることと、一人で効率良く稼げることは別です。
加工で起業したことを「失敗だった」と思った時もある
独立直後、
「加工の仕事を始めたこと自体が失敗だったのではないか。」
と思ったことがあります。
理由は単純です。
初期投資が大きいのに、利益がほとんど出なかったからです。
今、
「もう一度、同じように加工業で独立しますか?」
と聞かれたら、
たぶん同じやり方はしません。
むしろ、
今なら最初から加工業で起業しないかもしれません。
16年続けてきた人間が言うのも変ですが、それくらい製造業の独立は簡単ではありません。
一番苦労したのは、値段だった
独立したばかりの頃は、価格についてもかなり苦労しました。
お客様から、
「この金額でやって。」
と指値されることもありました。
まだ、それなら金額が分かっています。
もっと困ったのは、
「価格はまだ決まっていないけど、やる?」
と言われた仕事です。
加工して納品した後に、こちらが思っていたよりかなり安い価格を言われたこともありました。
さらに、こちらが見積もりを出し、注文書をもらって加工した製品でも、納品に行った時に値引きを求められたこともあります。
独立したばかりだと、
「仕事を断ったら、次から来なくなるかもしれない。」
という気持ちがあります。
だから、どうしても弱くなります。
でも安い仕事をたくさん取っても、
忙しくなるだけで、利益は残りません。
価格を下げれば仕事は来る。でも、それでは続かない
仕事がない時、
「少し安くすれば取れるのではないか。」
と考えてしまいます。
実際、価格を下げれば仕事は来ます。
でも、
それでは利益が出ません。
忙しい。
毎日遅くまで働いている。
機械もずっと動いている。
それなのに、お金が残らない。
そんな状態になってしまいます。
最終的に大事なのは、
いいお客様を探すことだと思います。
ここで言う「いいお客様」とは、単に高い金額を払ってくれる会社という意味ではありません。
こちらの仕事を理解してくれて、
品質や納期、技術に対して、適正な価格で付き合えるお客様です。
そういうお客様との関係を少しずつ増やしていくことが、長く続けるためには大切だと思います。
仕事を取るために、まず必要なのは品質と納期
一人親方として仕事を始めた頃、特に重要だったのは、
品質と納期でした。
当然ですが、不良品を出せば次の仕事は来ません。
そして小さな加工会社の場合、
短納期に対応できることが大きな武器になります。
私の経験では、一人でやっている小さな工場に、最初から納期に余裕のある仕事がどんどん来るわけではありません。
「急ぎだけど、できる?」
という仕事に対応する。
そこで品質も守る。
その積み重ねで、次の仕事につながっていきました。
技術力と営業力、どちらが大事なのか
これはよく聞かれると思います。
私の答えは、
基本的には50対50です。

いくら加工技術があっても、仕事を取れなければ売上はありません。
逆に営業が得意でも、受けた仕事をきちんと作れなければ続きません。
ただし、これは独立時にお客様がいない場合の話です。
もし独立する時点ですでに、
「独立したら仕事を出すよ。」
というお客様がいて、十分な仕事量が確保できているなら、話は違います。
その場合は、
技術100%でもいいと思います。
営業して新しい仕事を探し回らなくても、すでに仕事があるからです。
あとは、そのお客様に、
品質。
納期。
技術。
この3つでしっかり応えていけばいい。
逆に私のように、
お客様がいない状態で独立するなら、技術だけではかなり厳しい。
仕事を探す営業力が必要になります。
ですから、
技術と営業の割合は、独立した時にすでにお客様がいるかどうかで大きく変わる。
これが16年やってきた今の私の考えです。
独立するなら、私は今でも一人で始める
では、最初から人を雇うべきなのか。
それとも一人で始めるべきなのか。
今の私なら、
一人で始めます。
人を雇えば、人件費が毎月発生します。
仕事があってもなくても、給料は払わなければいけません。
独立したばかりで売上が安定していない時に、固定費を増やすのは怖いです。
まず一人で始める。
仕事が増えて、
「もう一人では回らない。」
となってから、人を増やす。
私なら、そうします。
もちろん一人で始めれば大変です。
でも最初は、会社をできるだけ軽くしておく方がいいと思います。
独立して良かったこともある
ここまで厳しい話ばかり書きましたが、もちろん独立して良かったこともあります。
私の場合は、
自分の時間を作れること。
そして、
自分の機械を持てること。
これは大きかったです。
会社員だった頃にはできなかったことを、自分で判断してできるようになります。
どんな機械を買うか。
どんな仕事をするか。
どこへ向かうか。
最終的に決めるのは自分です。
その代わり、
失敗した時の責任も全部自分です。
独立して大変だったのは「資金・仕事・納期」
16年間やってきて、
「独立して何が大変でしたか?」
と聞かれたら、私はこの3つを挙げます。
資金。
仕事を見つけること。
納期。
特に最初は、この3つがずっとついてきます。
仕事がなければ、お金がなくなる。
仕事を取れば、納期に追われる。
忙しくなって設備を増やそうとすれば、またお金が必要になる。
町工場を経営するというのは、その繰り返しでもありました。
「独立した方がいいですか?」と聞かれたら
今、40代くらいの製造業の人から、
「独立した方がいいですか?」
と聞かれたら、私はこう答えます。
「すでにお客様がいるなら、賛成です。」
でも、
お客様がいない。
仕事のあてもない。
資金も十分ではない。
それでも、
「腕があるから何とかなる。」
という状態なら、
私は、
「基本的には、辞めた方がいいよ。」
と言います。
実際、これまで何人かにそうアドバイスしたことがあります。
夢がない話に聞こえるかもしれません。
でも、私は独立を否定しているわけではありません。
自分自身、独立したから今があります。
ただ、
加工ができることと、加工会社を経営できることは別です。
独立するなら、
どんな機械を買うかより先に、
「誰が仕事を出してくれるのか。」
そこを考えた方がいいと思います。
技術はもちろん必要です。
でも、仕事がなければ機械は動きません。
そして、
安い仕事で機械を動かし続けても、会社は残りません。
16年間やってきて、私が一番強く感じているのはそこです。
もし、すでに仕事を出してくれるお客様がいる。
その仕事をきちんとこなせる技術もある。
そして、ある程度の資金も準備できている。
そこまでそろっているなら、
独立に挑戦する価値はあると思います。
ただし、
それでも簡単ではありません。
私自身も、まだ途中です。
だからこれからも、
町工場を続けながら、自分なりの答えを探していこうと思っています。

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