会社を設立して間もない頃、私はまだ一人で仕事をしていました。
加工も、プログラムも、検査も、納品も、営業も、すべて一人でこなしていました。
忙しい毎日でしたが、「会社とは、こういうものなんだ」と思っていました。
もちろん仕事が増えることは嬉しい反面、一人でできることには限界があります。
それでも当時の私は、誰かと一緒に仕事をするということを、まだ具体的には考えていませんでした。
そんなある日、一人の職人さんが仲間に加わることになりました。
加工担当のAさんです。
「今日からよろしくお願いします。」
その一言から、私の会社は少しずつ変わり始めました。
Aさんは、私より年下でしたが、加工の世界では私よりずっと先輩でした。
新しく導入した加工機は、それまで使っていた機械とは操作方法が違いました。
私は一通り操作方法を説明しましたが、正直なところ、慣れるまでには時間がかかるだろうと思っていました。
ところが、その心配はすぐになくなりました。
Aさんは機械の特徴をすぐに理解し、あっという間に仕事をこなしていきました。
しかも、CAD/CAMに頼ることはほとんどありません。
自分で作成したマクロプログラムを駆使し、一品物の加工を次々と仕上げていく姿は、まさに職人そのものでした。
私はその仕事ぶりを見て、「さすがだな」と何度も感心しました。
そして、今でも忘れられない朝があります。
いつものように工場へ入ると、棚には完成した製品が静かに並んでいました。

それは、自分が作った製品ではありません。
Aさんが加工を終えた製品でした。
その光景を見た瞬間、不思議な感覚になりました。
自分が手を動かしていないのに、仕事が進んでいる。
自分が工場にいない時間も、会社は止まらずに動いている。
それまで私の中では、「会社=自分」でした。
でも、その日初めて気付きました。
会社とは、人が集まることで成長していくものなんだ。
一人では見ることのできなかった景色が、そこにはありました。
あの日、棚に並んでいた完成品は、ただの製品ではありませんでした。
私にとって、それは「仲間と会社をつくる」という未来への第一歩だったのです。
― 第6話へ続く ―

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