会社を始める前は、
仕事を取って、売上を上げれば何とかなる。
そんなふうに考えていました。
仕事があれば機械を動かす。
機械を動かせば売上になる。
売上があれば会社は回る。
今考えると、
かなり単純に考えていたと思います。
でも実際に町工場を経営してみると、
売上があることと、手元にお金があることは別でした。
仕事をするにも、
先にお金が必要です。
そして、
仕事を終えて納品しても、
すぐにお金が入ってくるとは限りません。
16年近く会社をやってきて、
売上だけを見るのではなく、
「いつお金が入って、いつお金が出ていくのか。」
これを見ることも、
経営では大事だと感じています。
開業した時、手元に残ったのは約300万円
開業資金として、
私は約1,400万円を集めました。
でも、
中古のマシニングセンタ。
中古のNCフライス。
コンプレッサー。
測定器。
工具。
ツールホルダ。
工場の改装。
いろいろなものをそろえると、
お金はどんどんなくなります。
最終的に、
開業した時に運転資金として残ったのは、
約300万円でした。
当時は、
300万円残っているという感覚だったと思います。
でも、
会社を動かし始めれば、
そこから毎月お金が出ていきます。
設備を買うお金も必要ですが、
実際に会社を始めてからは、
会社を動かすためのお金も必要になります。
今なら、
設備資金と運転資金は、
どちらも大事だと思います。
仕事をもらっても、先にお金が出ていく
加工の仕事を受けたら、
まず材料が必要です。
工具や刃物が必要になることもあります。
場合によっては、
その仕事のために新しい工具を買うこともあります。
開業したばかりの頃は、
材料を注文するたびに、
先に銀行振込をしていました。
まだ会社としての信用もありません。
つまり、
仕事をもらったからといって、
すぐにお金が入ってくるわけではありません。
逆です。
まず、
こちらがお金を出して仕事を始めます。
材料を買う。
工具を準備する。
加工する。
検査する。
納品する。
そして、
請求する。
そこからようやく、
お客様からの入金を待ちます。

独立する前は、
ここまで深く考えていませんでした。
「機械をフルで回せば、このくらい売れる」と言われた
開業する前、
機械を扱う商社の人から、
こんな話を聞いていました。
「マシニングなら時間単価はこれくらい。」
「NCフライスならこれくらい。」
「一日フルで動かせば、月にこれくらいの売上になる。」
数字だけを見ると、
「これならやっていけるかもしれない。」
と思います。
でも、
実際に始めてみると、
そんな計算には程遠いものでした。

そもそも、
毎日朝から晩まで、
機械を動かせるだけの仕事がありません。
仕事があっても、
見積もりをする。
材料を手配する。
プログラムを作る。
段取りをする。
測定する。
納品する。
一人でやっていた頃は、
そういう仕事をしている間、
機械が止まります。
「機械をフルで動かしたら、月にいくら売れる。」
という計算と、
実際の町工場経営は、
まったく別のものでした。
ほとんどの場合、
自分の思い通りにはいきません。
月70万円あれば回ると思っていた
開業した頃、
私は、
月70万円くらい売上があれば何とか回る。
そう考えていました。
でも、
実際にはその売上すら、
なかなか達成できませんでした。
機械があるから、
仕事が来るわけではありません。
仕事が来ても、
思った単価で受けられるとは限りません。
機械が空いているからといって、
都合よく次の仕事が入ってくるわけでもありません。
開業前の計画と、
実際の売上には、
かなり差がありました。
だから今なら、
開業前の売上予想をそのまま信じるのではなく、
「予想より仕事が少なかったらどうするか。」
まで考えておいた方がいいと思います。
納品しても、まだ安心できない
加工して、
検査して、
納品する。
ここまで終わると、
仕事が終わったような気持ちになります。
でも会社としては、
まだ終わっていません。
代金が入って、初めてお金になります。
昔は、
約束手形で支払われることもありました。
手形が落ちるまでは、
ひやひやしたことがあります。
売上としては上がっていても、
手元にはまだ現金がありません。
材料代や工具代は、
すでにこちらが払っています。
この時間差も、
経営をしてみて初めて実感しました。
約束の日に入金されないこともあった
もっと困ったこともあります。
決まった入金日に、
お金が入っていない。
「支払いを遅らせてほしい。」
と連絡が来る。
中には、
約束の日に入金がなく、
こちらから電話をしたら、
担当者につないでもらえなかったこともありました。
こちらは、
もう製品を納めています。
材料代も払っています。
人も動いています。
それなのに、
入ってくるはずのお金が入ってこない。
仕事がない怖さとは、また別の怖さです。
売上が良い時に、全部使ってはいけない
会社には、
良い時もあれば、
悪い時もあります。
ずっと同じ売上が続くわけではありません。
実際、
仕事が少なくなった時もありました。
それでも、
給料はもちろん、
賞与もきちんと払いました。
だから私は、
良い時に調子に乗らないこと。
これは大事だと思っています。
売上が良いからといって、
全部使ってしまう。
新しい機械を買う。
車を買う。
固定費を増やす。
それで、
翌年も同じ仕事量が続くとは限りません。
良い時ほど、
悪くなった時のことを考えておく。
これは、
第22話の一社依存の話にもつながります。
お金に余裕があると、仕事も選べる
お金に余裕がないと、
目の前に来た仕事を断るのが怖くなります。
安くても、
「売上になるなら受けよう。」
と思ってしまいます。
でも、
安い仕事で機械が埋まってしまえば、
あとから良い仕事が来ても、
受けられません。
第20話で書いた、
「あえて機械を空けておく。」
という判断も、
手元のお金にある程度余裕がないと、
なかなかできません。
経営に少し余裕ができると、
「この仕事は無理に取らなくてもいい。」
という判断もできるようになります。
資金に余裕があることは、
単に安心できるというだけではなく、
仕事を選ぶ余裕にもつながる
と思っています。
売上だけを見ない
独立したばかりの頃は、
とにかく売上が欲しかったです。
売上が増えれば、
会社は良くなると思っていました。
もちろん、
売上は必要です。
でも今は、
売上だけでは見ません。
いつ入金されるのか。
それまでに、いくらお金が出ていくのか。
材料代や工具代、給料を払えるだけのお金が手元にあるのか。
こちらも大事です。
これから町工場を始める人には、
設備にいくら必要かだけではなく、
仕事を受けてからお客様から入金されるまでの間に、材料代や給料を払えるだけのお金を残しておくこと。
そこまで考えておいた方がいいと思います。
そして、
開業当時の自分にもう一度言うなら、
やはりこれです。
収入予想はミニマム。
出費はマックス。
機械がフルで動く前提では考えない。
思った通りに仕事が来る前提でも考えない。
会社経営は、
ほとんどの場合、
自分の思い通りにはいきません。
だからこそ、
思い通りにいかなかった時でも続けられる準備をしておく。
16年近く会社をやってきて、
これは本当に大事だと思っています。

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