町工場を始めると、
仕事を取ることも難しいですが、
もう一つ難しいことがあります。
それが、
「いくらで受けるのか。」
ということです。
独立したばかりの頃、
私は見積もりの付け方がよく分かっていませんでした。
最初はお客様から、
「この金額でやってください。」
と価格を指定される仕事も多く、
少し経ってから自分で見積もりを出すようになりました。
でも、
いくらなら高いのか。
いくらなら安すぎるのか。
それすら分かりませんでした。
結局私は、
安い仕事をやって、痛い目にあって、少しずつ値段を覚えていきました。
最初は「加工時間×時間単価」で考えていた
独立した頃の時間単価は、
- マシニングセンタ 4,000円/時間
- NCフライス 3,000円/時間
くらいで考えていました。
加工時間に時間単価を掛けて、
材料代を足す。
そんな見積もりです。
でも、
それでもなかなか仕事は取れませんでした。
当時、見積もりに十分入れられていたのは、
材料代と加工時間くらいでした。
段取り。
プログラム。
測定。
工具。
そういう費用まできちんと価格へ乗せることは、なかなかできませんでした。
同業者の下請けばかりでは、なかなか利益が出なかった
最初の頃、
「この値段では利益が出ない。」
と感じた仕事は、一つや二つではありません。
ほとんどの仕事がそんな感じでした。
特に厳しかったのが、
同じ加工業者から回ってくる仕事です。
元の会社も利益を取ります。
そこから外注へ出すので、
こちらへ来る時には価格がかなり厳しくなっています。
私は、
「同業者の下請けばかりやっていては、なかなか儲からない。」
と痛感しました。
「この金額でやって」は、しょっちゅうあった
お客様から、
「この金額でやって。」
と先に価格を決められることは、珍しくありませんでした。
同じ製品を何か月か加工していると、
値下げ交渉が来ることもありました。
少し下がる。
またしばらくすると下がる。
そんな仕事もありました。
仕事がない時は、
なかなか断れません。
「これを断ったら、次の仕事がなくなるかもしれない。」
そう考えてしまいます。
納品してから値段を下げられたこともある
今でも覚えていることがあります。
見積依頼が来る。
見積もりを出す。
注文が来る。
加工する。
そして納品に行く。
すると、
「実は、この製品は○○円なんです。これに合わせてくれないかな。」
と言われました。
最初からその金額を言えば、
こちらが受けないと思ったのでしょう。
でも、もう製品は完成しています。
当時の私は売上も少なく、
次の仕事も欲しかったので、
その金額を受け入れました。
今なら、
金額次第では、
「それなら持って帰ります。」
と言えるかもしれません。
でも当時は言えませんでした。
安くすれば、仕事は取れる
起業して半年くらいすると、
一つ分かったことがあります。
安くすれば仕事は取れる。
ということです。
価格を下げれば、
仕事は来ます。
機械も動きます。
売上も立ちます。
でも、
利益が残るとは限りません。
一人でやっている時なら、
自分が長く働けば何とかなることもあります。
しかし、
人を入れて加工するようになると、
赤字の仕事はかなり響きます。
忙しい=儲かっている、ではない
これは町工場をやってきて、
かなり大事だと思うことです。
忙しいことと、儲かっていることは別です。
機械がずっと動いている。
仕事もたくさんある。
毎日遅くまで働いている。
それでも、
単価が安ければお金は残りません。

材料。
工具。
電気。
人件費。
機械の修理。
いろいろなお金が出ていきます。
だから見るべきなのは、
仕事の量だけではなく、
「どんな値段でその仕事を受けているか。」
だと思います。
適正価格は、痛い目にあって覚えた
「適正価格をどうやって覚えましたか?」
と聞かれても、
きれいな答えはありません。
私は、
安い仕事をやって、痛い目にあって覚えました。
思ったより加工時間がかかった。
プログラム作成に時間がかかった。
測定に手間がかかった。
工具をたくさん使った。
実際にやってみると、
見積もりの時には見えていなかったことが出てきます。
そして、
「この仕事なら、これくらいはもらわないと合わない。」
と少しずつ分かるようになりました。
見積もりを1割ずつ上げてみたこともある
あるお客様では、
見積依頼が来るたびに、
少しずつ金額を上げたことがあります。
見積もりを出す。
注文が来る。
次の見積依頼が来る。
今度は前回より1割くらい高くする。
また注文が来る。
それを繰り返して、
とうとう、
「高すぎます。」
と言われるところまで上げました。
もちろん、
これが正しい見積方法だという意味ではありません。
当時の私は、
そうやって、
「このお客様なら、このくらいまでの価格なんだな。」
と覚えていきました。
1個と100個では単価が違う
同じ製品でも、
1個と100個では見積もりは変わります。
1個なら、
段取り。
プログラム。
工具の準備。
測定。
そういう時間が、1個に全部かかります。
100個あれば、
一度段取りをすれば、
あとは続けて加工できます。
加工しながら、
さらに早くできる方法も見えてきます。
当然、
数量が増えれば単価を下げられる場合があります。
ただし、
数が多ければ何でも良い仕事、というわけではありません。
1000個出すと言われたのに、途中で終わった
こんなお客様もいました。
見積依頼は、
1個の場合。
100個の場合。
1000個の場合。
それぞれの単価を出してほしい、という内容でした。
当然、数量が増えれば段取り時間を分散できますし、連続加工で効率も上がります。
そのため、
1000個の場合が一番安い単価になります。
お客様からは、
「合計で1000個出します。」
と言われました。
そこで私は、1000個出ることを前提にした単価で見積もりを出しました。
注文書も、その1000個単価で来ました。
ただし、発注は一度に1000個ではなく、
数十個ずつ、小出しで注文が来る形
でした。
私は当然、
「最終的には合計1000個になる。」
と思って加工していました。
ところが、
途中から注文が来なくなりました。
結果として、
合計100個くらいで終わりました。

こちらは1000個加工する前提で単価を下げています。
100個で終わるのであれば、本来は100個の場合の単価でなければ合いません。
当時の私は、
「これはちょっと詐欺みたいだな。」
と思いました。
もちろん、本当に詐欺だったという意味ではありません。
ただ、
「1000個出す」と言って1000個の単価で注文し、小出しで発注して途中で終わる。
加工する側からすると、かなり厳しいやり方です。
この経験から、
数量別の見積もりを出す時は、
「1000個単価は、累計1000個の発注が前提です。」
という条件を、最初に決めておくことが大事だと思うようになりました。
単品加工は、プログラムと加工時間を読み違えやすい
単品加工で難しいのは、
実際にやってみないと分からない部分が多いことです。
私の場合、
特に読み違えやすかったのが、
プログラム作成時間と加工時間
でした。
図面を見た時には、
「これくらいでできるだろう。」
と思っていても、
実際にプログラムを作り、
工具を考えて加工すると、
予想以上に時間がかかることがあります。
だから、
単品加工の見積もりは難しいです。
急ぎの仕事にはリスクも入れる
急ぎの仕事は、
私は少し高めに見積もります。
急ぎということは、
予定していた仕事へ割り込ませることもあります。
思った以上に時間がかかれば、
別の仕事にも影響します。
だから、
リスクも価格に入れる。
という考え方です。
一方で、
長く付き合っていて信用関係のあるお客様なら、
後見積もりで対応することもあります。
実際に加工して、
かかった時間を見てから価格を決める。
私の感覚では、
結果的にこちらの方が安くなることもあります。
お互いに信用があるからできる方法です。
特殊工具は、全額をその仕事に乗せないこともある
特殊な工具や治具が必要になる仕事もあります。
その場合、
私は必ずしも全額をその仕事へ入れるわけではありません。
次の仕事でも使えるからです。
私の場合は、
3割から5割くらい
見積もりへ入れることがあります。
もちろん、
その仕事にしか使えないものなら、
考え方は変わります。
加工ミスのリスクも少し見る
加工では、
絶対に失敗しないとは言えません。
工具が欠ける。
寸法を外す。
材料をもう一度買う。
作り直しになる。
そういうことがあります。
だから私は、
加工時間を見積もる時に、
30分程度の余裕を加える
ことがあります。
少しでもリスクを見る。
これは必要だと思います。
コストが上がれば、次の見積もりを上げる
材料。
工具。
電気代。
いろいろなものが上がります。
私は、
既存の仕事について毎回値上げ交渉をするというより、
次の見積もりから金額を上げる
というやり方が多いです。
その時のコストに合わせて、
価格を見直します。
「この値段なら仕事はいらない」と言えるまで5年くらいかかった
独立したばかりの頃は、
安くても仕事を断れませんでした。
仕事そのものがなかったからです。
でも、
少しずつお客様が増えてくると、
考え方も変わってきます。
私が、
「この値段なら仕事はいらない。」
とある程度言えるようになったのは、
起業して5年くらい経ってからだったと思います。
そこまで来るには、
やはり時間がかかりました。
16年やっていても、見積もりは迷う
今でも、
見積もりを出した後に、
「高かったかな。」
「安かったかな。」
と思うことはあります。
見積もりに、
絶対の正解はないと思います。
ただ、
今お付き合いしているお客様は、
価格だけではなく、
納期と品質を重視してくれる会社が多くなりました。
これは独立した頃とは大きく違います。
今なら、図面を見てこの順番で考える
今、
新しいお客様から図面をもらったら、
まず、
材料。
次に、
加工。
必要なら、
表面処理。
最後に、
送料。
という順番で考えます。
そこへ、
加工の難しさ。
納期。
工具。
リスク。
などを加えていきます。
見積もりは、経験しながら覚えていけばいい
これから独立する人が、
最初から完璧な見積もりを作るのは難しいと思います。
私自身、
高かったのか。
安かったのか。
実際に加工して初めて分かった仕事がたくさんあります。
仕事をする。
実際に何時間かかったかを見る。
いくら残ったか確認する。
そして、
次の見積もりに反映する。
その繰り返しでいいと思います。
ただ、
リスクは少し見ておく。
そして、
納期は絶対に注意する。
ここは大事です。
私が思う「良い仕事」
数が多ければ、
良い仕事なのでしょうか。
私は、
そうは思いません。
数が多くても、
安すぎればダメです。
中には、
こちらが企業努力で加工時間を短縮すると、
「早くできるようになったなら、もっと安くして。」
と言ってくる会社もあります。
それでは、
こちらが努力した意味がありません。
私が思う良い仕事は、
こちらが見積もりを出して、その金額で注文してくれる仕事です。
もちろん、
たまに、
「今回は予算が厳しいから少し協力してほしい。」
という話なら分かります。
逆に、
予算に余裕がある時には、
「今回は少し上乗せしていいよ。」
と言ってくれる。
そういうお客様なら、
長く付き合いたいと思います。
でも、
毎回「予算がない」と言う会社には注意した方がいい。
私はそう思っています。
安くすれば仕事は取れる。でも、それでは会社は残らない
独立した頃の私は、
仕事が欲しくて、
安い仕事でも受けました。
値段を指定されても受けました。
納品後に値段を下げられても、
次の仕事が欲しくて受け入れました。
当時は、
そうするしかなかった部分もあります。
でも、
会社を長く続けるなら、
安い仕事をたくさん取るだけではダメです。
忙しくても、
利益が残らなければ会社は続きません。
私は見積もりの付け方を、
教科書で覚えたわけではありません。
安い仕事をして、
失敗して、
少し値段を上げて、
お客様の反応を見て、
少しずつ覚えてきました。
今でも迷います。
それでも、
16年近くやってきて一つ思うのは、
良い仕事とは、こちらが考えて出した価格を、お客様が納得して注文してくれる仕事。
ということです。
安くすれば仕事は取れます。
でも、
仕事を取ることと、会社を続けることは別です。
見積もりは、
その違いを決める大事な仕事だと思っています。

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