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第17話|仕事がなくても始めた。お客様ゼロからの営業

「町工場の仕事はどうやって取る?」

町工場を始める時、

機械をどうするか。

資金をどうするか。

工場をどこに借りるか。

考えることはいろいろあります。

でも、今振り返ると、それより先に考えておくべきことがありました。

「誰が仕事を出してくれるのか。」

ということです。

私は2010年6月に、一人で町工場を始めました。

しかし、起業した時点で、

仕事を出してくれるお客様はゼロでした。

今考えると、かなり無謀だったと思います。

当時の私は、

「加工する技術はある。頑張れば何とかなる。」

そう思っていました。

でも実際には、

頑張っても、どうにもならないことがありました。

技術があっても、仕事がなければ機械は動きません。

今回は、お客様ゼロで町工場を始めた私が、どうやって仕事を探したのか。

そして16年近く経営してきた今、独立前に何をしておけばよかったと思うのかを書いてみます。


目次

今なら、お客様ゼロでは独立しない

最近、製造業の独立について改めて調べていると、

「独立する前に、最低でも3社くらいは仕事を出してくれるお客様を作っておいた方がいい。」

という考え方を目にしました。

それを見て、

「自分は一社もいなかったな……。」

と思いました。

今さらですが、本当に無謀だったと思います。

もちろん「3社」という数字が誰にでも当てはまるとは思いません。

仕事量も単価も業種も違います。

ただ、

独立した時点ですでに仕事を出してくれる会社が何社かある。

これはものすごく大きいと思います。

私には、それがありませんでした。

だから独立してから、

「仕事をください。」

というところから始めることになりました。


最初の仕事は、商社からの紹介だった

最初の仕事を紹介してくれたのは、中古機械を購入した商社の担当者さんでした。

商社の方がお付き合いのある会社を紹介してくれました。

その後も、取引先を増やす時には商社から紹介してもらうことがありました。

ただ、独立したばかりの町工場に回ってくる仕事は、簡単なものばかりではありません。

むしろ、

  • 面倒な仕事
  • 複雑な仕事
  • 単価の安い仕事

が多かったです。

考えてみれば当然です。

簡単で利益の出る仕事なら、自社でやります。

外へ出したい仕事には、何か理由があります。

独立したばかりの私は、そういう仕事でも受けるしかありませんでした。


ネットで会社を探して営業にも行った

もちろん、紹介を待っているだけではありませんでした。

インターネットで加工の仕事がありそうな会社を探しました。

電話をして、

「一度お伺いしてもよろしいでしょうか。」

とお願いして、会社へ営業に行きました。

最初の頃に営業へ行ったのは、5社くらいだったと思います。

持って行ったのは、

名刺だけ。

今考えると、会社案内や設備一覧、加工サンプルくらい持って行けばよかったと思います。

でも当時は、そこまで考えていませんでした。

そして結果として、

自分から行った営業は、ほとんど受注につながりませんでした。


営業に行くと、最初に聞かれたこと

自分から営業に行くと、よく聞かれました。

「うちは安いけど、大丈夫?」

仕事が欲しい私は、

「大丈夫です。」

と答えるしかありません。

「その値段ではできません。」

と言えば、仕事は来ません。

当時は仕事そのものがありませんでしたから、

利益より、まず売上を作ること。

そこを優先していました。


価格を下げれば、仕事は取れる

最初に継続して仕事をいただけるようになった会社も、

安いけれど仕事量は多い会社

でした。

価格を落とせば仕事は取れます。

機械も動きます。

売上もできます。

でも、

利益はほとんど残りません。

私は、

「こんな仕事ばかり受けていてもダメだ。」

と思っていました。

でも仕事がない。

だから、目先の売上を作るために受ける。

そんな状態でした。

今なら、

仕事があることと、儲かることは別

だとはっきり分かります。


仕事がない時は、価格交渉なんてできなかった

「適正価格で仕事を受けましょう。」

という話はよくあります。

もちろん、それが理想です。

でも、

仕事がまったくない時には、なかなかそんなことは言えません。

私も最初の頃は、ほとんど価格交渉ができませんでした。

ただ、ずっと安いままでは会社が続きません。

そこで、見積もり金額を少しずつ上げていきました。

一気に上げるのではありません。

少しずつ、少しずつ。

そして、

「それは高すぎるよ。」

と言われるところまで上げたこともあります。

そうすると、

「この会社なら、この辺りの価格までは通るんだな。」

ということが分かります。

そうやって、お客様ごとの価格感を少しずつ覚えていきました。


一番効果があったのは「紹介」だった

振り返ると、一番効果があったのは、

人からの紹介でした。

特に、以前一緒に働いていた人が転職した会社とのつながりは大きかったです。

ここで私は一つ後悔しています。

会社員のうちに、もっと外注先や取引先とのつながりを作っておけばよかった。

ということです。

私が会社員だった頃は刃物メーカーに勤めていて、外注先と直接接する機会がほとんどありませんでした。

だから独立した時に、

「この会社なら仕事を出してくれるかもしれない。」

というつながりがほとんどありませんでした。

もし今、独立を考えている人がいるなら、

会社員のうちに人とのつながりを作っておく。

これはかなり大事だと思います。

もちろん、今勤めている会社のお客様を勝手に持っていくという意味ではありません。

会社とは円満に辞める。

そのうえで、

「独立するなら、仕事をお願いするよ。」

と言ってもらえる関係を作っておく。

私なら、今はそうします。


短納期は、小さな町工場の大きな武器になる

仕事を続ける中で、

短納期対応

はかなり大きな武器になりました。

特に、自動化システムを設計・製作している会社からの加工仕事では、それを強く感じました。

自動化設備は、設計が予定通りに終わらないことがあります。

設計が遅れる。

でも、設備を納める日は決まっている。

すると、その遅れが加工工程に来ます。

つまり、

設計で遅れた分を、加工納期で取り戻さなければならない。

そんな仕事が何度もありました。

私は、とにかく間に合わせました。

深夜まで加工する。

翌日も加工する。

また深夜までやる。

当時は毎日のように遅くまで働いていました。

大変でした。

でも、その積み重ねで、

「あいつに頼めば、期日までに何とかしてくれる。」

と思ってもらえるようになったのだと思います。

加工業では、

技術。

価格。

品質。

もちろん全部大事です。

でも、

納期を守ること自体が営業になる。

私はそう感じています。


技術は「あって当然」だった

仕事を取るうえで、

技術。

価格。

納期。

人柄。

対応の速さ。

どれが一番重要なのか。

私は、

技術、価格、納期、人柄

という順番かなと思います。

ただ、

技術はあって当然です。

加工屋に仕事をお願いして、加工できないのでは話になりません。

だから実際には、技術があるうえで、

価格は合うか。

納期は守れるか。

話をしやすいか。

そこまで含めて次の仕事につながるのだと思います。


良いお客様は「高い仕事をくれる会社」だけではない

長く経営していると、

いろいろなお客様がいます。

不思議なもので、

単価が安いのに、傷や見た目について非常に厳しい会社もあります。

逆に、

価格は比較的良く、それほど細かいことを言わない会社もあります。

だから、

価格が高い会社=良いお客様

と単純には言えません。

私が、

「この会社とは長く付き合いたい。」

と思うのは、

外注先にもある程度の思いやりがある会社です。

そして、

対等に扱ってくれる会社。

ここは大事だと思います。

「外注だから言うことを聞け。」

という関係では、長く続けるのはつらいです。

お互いに困った時に相談できる。

納期について話ができる。

価格についても話ができる。

そういうお客様とは、長く付き合いたいと思います。


仕事がないからといって、何でも受ければいいわけではない

仕事がない時は焦ります。

実際、私も、

「どこでもいいから営業に行こうか。」

と思ったことがあります。

そんな時、九州の中で、

「ここだけはやらない方がいい。」

と言われる会社を3社ほど教えてもらったことがありました。

中には、

「ここの仕事をやる時は、本当に最後だよ。」

と言われる会社もありました。

仕事がない時、

そこへ営業へ行こうかと考えたことがあります。

でも、

行きませんでした。

結果的には、それでよかったと思います。

仕事がないと、

「何でもいいから受けなければ。」

と思います。

でも、会社を続けられなくなるような条件の仕事まで受ける必要はありません。


それでも、仕事がなければ安くても受けるしかない時がある

ここは矛盾して聞こえるかもしれません。

「安い仕事はダメ。」

と言いながら、

「仕事がなければ安くても受ける。」

私は両方あると思っています。

もし運転資金に余裕があって、

すでに付き合いのあるお客様から次の仕事が来る見込みがある。

それなら、

無理に安い仕事を取らず、我慢する。

という選択もできます。

でも、

お客様もいない。

仕事もない。

運転資金も減っていく。

そうなれば、

安くても仕事を取らなければならない時もあります。

私もそうでした。

だからこそ、

独立前にお客様を作っておくことが重要なのだと思います。


紹介で仕事が増え始めるまで、2年半ほどかかった

私の場合、

人からの紹介などで仕事が増え始めたのは、

起業して2年半くらい経ってから

だったと思います。

それまでは、

仕事がない。

安い仕事を受ける。

利益が出ない。

営業する。

でも、なかなか仕事につながらない。

そんな時期が続きました。

一つの転機になったのが、

加工だけでは難しいと思い、ロボットプログラムの仕事でインドへ行ったことでした。

その後から、昔の同僚とのつながりなどもあり、少しずつ流れが変わっていきました。

このあたりの経緯は、おっさんの挑戦記の第3話でも書いています。


WebやSNSだけで町工場の仕事が取れるとは思っていない

今なら、

ホームページ。

SNS。

ブログ。

いろいろな方法があります。

もちろん、やらないよりはやった方がいいと思います。

ただ、

加工業のBtoB取引では、Webだけで簡単に仕事が取れるとは私は思っていません。

多くの会社には、すでに付き合っている協力会社があります。

何か問題がなければ、わざわざ新しい加工屋へ変更する必要がありません。

常に安い加工先を探している会社なら別かもしれません。

でも、長く付き合える仕事を考えるなら、

やはり、

人からの紹介や信用の積み重ね

の方が強いと私は感じています。


「加工では城は建たない」

昔、私がお願いしていた外注さんに、汎用旋盤を60年ほどやっていた方がいました。

その方自身も、以前は加工屋を経営していたそうです。

その人から、よく言われた言葉があります。

「加工では城は建たない。」

そして、こんなことも言っていました。

「鉄工所の“鉄”は、金を失うと書く。」

もちろん、本来の漢字の成り立ちを説明しているわけではありません。

加工屋の大変さを表した、その方なりの言い方です。

機械は高い。

工具や刃物は消耗する。

切削油も必要。

作動油も必要。

電気代もかかる。

仕事をたくさんしても、それだけお金も出ていきます。

16年近く加工業を続けてきた今、

「本当にその通りだな。」

と思います。

最近、加工屋が多少単価が安くても、数の多い仕事を好む理由も分かります。

段取りを一度すれば、同じものを続けて加工できます。

一品物を何度も段取り替えするより、効率がいい。

加工業は、

忙しければ儲かる

という仕事ではありません。


今から独立するなら、まず仕事をくれる人を探す

もし私が今、

もう一度一人で町工場を始めるなら、

機械を探すより先に、

仕事を出してくれるお客様を探します。

そして、できれば一社だけではなく、

複数の会社とのつながりを作ります。

一社だけだと、その会社の仕事が止まった時に自分の会社も止まります。

だから、できるだけ複数のお客様がいた方がいい。

独立する前の会社員時代から、

外注先。

商社。

取引先。

以前の同僚。

そういう人たちとの関係を大事にしておく。

そして会社を辞める時も、

できるだけ円満に辞める。

可能なら、

「独立したら仕事をお願いするよ。」

と言ってもらえる関係を作ってから始める。

私なら、今はそうします。


お客様ゼロで始めた私が、一番後悔していること

私は、お客様ゼロで起業しました。

当時は、

「頑張れば何とかなる。」

と思っていました。

でも、

実際には頑張っても、どうにもならないことがありました。

仕事がなければ、

機械は動きません。

いくら良い機械があっても、

いくら加工技術があっても、

注文書は勝手に届きません。

だから今、

独立を考えている人に一つだけ言うなら、

「機械を買う前に、仕事をくれるお客様を作っておいた方がいい。」

と伝えます。

私は、それをしませんでした。

だから苦労しました。

安い仕事でも受けました。

深夜まで働きました。

それでも利益が出ない時期もありました。

今振り返ると、

かなり無謀な始め方でした。

それでも何とか続けてこられたのは、

商社の担当者。

昔の同僚。

外注さん。

そして仕事を任せてくれたお客様。

いろいろな人とのつながりがあったからです。

町工場の仕事を取る方法に、

簡単な正解はないと思います。

ただ、16年近くやってきた私が一番強く感じているのは、

仕事は、機械ではなく、人から来る。

ということです。

もし今から独立するなら、

私はまず、

「誰が仕事を出してくれるのか。」

そこから考えます。

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